最近珍しいハードファンタジー
「魔女と傭兵」は魔女シアーシャと傭兵ジグが、奇縁から未知の大陸への逃避行の果、未知の大陸で新しい人生を送るファンタジー作品です。
最近の作品には珍しく、転生でもゲームでもない硬派なファンタジー世界観で、ご都合主義も少なめ。重厚な作りになっています。
原作は「小説家になろう」であるようです。
作品コンセプトだけを見ると「魔女もの」「美女と野獣もの」「保護者もの」という感じがするんですが、本作はほぼほぼ戦闘シーンで構成されているアクション小説です。 シアーシャが強すぎるためかシアーシャの描写はかなり少なめで、ほぼ全編がジグの戦闘シーンです。なんなら、シアーシャは出番も少ないくらい。
地に足の着いた設定と重厚な構成
本作では「魔女」は種族的に別の存在として描かれています。
二人の出身となる大陸では「絶大な力を持ち魔術を扱う魔女」と「際限なく戦争を続ける人類」という構図である一方、逃避先の大陸では人間も魔術を使い、魔獣が存在するが故に戦争がない世界となっています。
出身の大陸のほうは序盤で離れてしまうため、どちらかといえばバックグラウンドストーリー的な存在であり、基本的には魔獣討伐を業とする冒険者としての生活になります。 ただ、ジグは冒険者になることなく、逃避先の大陸のほうでは異端とみなされる「傭兵」を名乗り続けていること、ジグの中で出身の大陸の価値観が染み付いていることから舞台になっていた時間が短いにも関わらず出身の大陸の存在感はかなりあります。
露出する設定そのものはかなりシンプルです。 しかし、その設定が余すことなく活かされており、物語がその設定に立脚して進行していくため、ブレがなく非常に力強いものになっています。
加えて、文章力・構成力が非常に高いことを感じる作品となっているため、「読ませる力」が非常に高く、ぐいぐいと物語に引き込んできます。
「魔女」というキー
魔女が種族的に別の存在であることは初期から明らかにされていますが、それ以外についてはかなり謎めいたものになっています。 シアーシャにしても魔女がどういう存在なのか理解していないという立ち位置で、なぜ逃避先の大陸の人々は魔術が使えるのかということについても謎のままです。
六巻ではついに魔女という存在について少しだけ触れられましたが、恐らくはその作品を通じて最大のキーとなるものなのだと思われます。
つまり、作品的にはジグの戦闘シーンがほとんどを占めるアクションシーンなのですが、一方で物語としては「魔女」を取り巻く様々な要素で構成されており、単なる痛快アクションではなくストーリーもまた非常に力強く惹きつけるものになっています。
少しのきがかり
読んでいて少しだけ気になったのがシアーシャの描写です。
シアーシャは当初は魔女という異質さに対して普通の少女であるかのように描かれていました。 一方、話が進むにつれシアーシャの異常性を非常に強く強調する描写に変化してきています。
それ自体は良いと思うのですが、描写があまりにも異常さを強調する方向に寄ってしまっているため、「普通の少女に見える」という前提がやや説得力を失ってきているように思えます。
最初のほうの話はなんだったのか……と思ってしまうような展開にならないかは、少しだけ心配しています。
骨太なファンタジー作品が恋しい人に
ライトノベルのファンタジー作品はもともと意外と硬派な作品が少なめで、何かしら特異な要素が組み込まれていたり、あるいはお決まりの展開を持っていたりという傾向があります。
もちろん有名なハードファンタジー作品も存在しますが、新しい現代的かつ原始的な骨太のファンタジー作品を求めていた人にとっては、まさに待望の作品であると思います。
ライトノベルというにはあまりライトではないかもしれない、くらいに骨太かつ重厚な物語。 単に現代にあって異色というだけではなく、ファンタジー小説に真っ向から向き合った作品を求めていた人にとって、それは長年恋い焦がれたものであるかもしれません。