「準備はできたか」
タケルが来たのは寒さも終わりに近づき、このシトラスにも芽吹きが訪れようかという頃だった。
タケルは三人の女を連れていた。うちひとりはアルセエリスであり、残り二人はそれぞれアヤソラとノステラという名前だと紹介された。
「……それでどれだけ戦えるんだか怪しいもんだけどな。まぁ、仕方ないか」
そう言い捨ててタケルは先陣を切った。

タケルたちとディアボロスでは移動速度に差がありすぎたが、行軍はディアボロスの速度に合わせたものになった。タケルの手配はよく、帝国領を越えて西へ行き、そして北へ向かう道中も障害というべきものは特になかった。
ディアボロスはその道中で知ったことがいくつもあった。
まず、タケルは知略に長けている、ということだ。この行軍は正攻法ではなく、詐術を巧みに用いて成り立っている。そして、単なる思いつきのような詐術ではなく、そこに正当性をもたせるように事前に入念に用意されているのだ。
そして、戦闘面でもタケルの態度は裏付けがあったことが明らかになった。「力を分け与えた」というアヤソラの弓とノステラの槍は、ディアボロスが構えをとる前に敵を殲滅する。アルセエリスがいるため、鬼どもが敵となることはそもそもなかったが、厄介な魔獣の群れが相手でもその殲滅はディアボロスが認識するより早く行われた。そしてアルセエリスが討伐した際には、ただ圧力を発しただけで一群が潰れた。以前には見たことのない力であり、タケルが女を抱くことでとてつもない力を与える、という言葉が裏付けられることであった。そして、それを見て明らかなのが、ディアボロスは今のアルセエリスに勝つことはできない、ということだ。それほどまでに、圧倒的な力であり、となればこの戦争においてディアボロスは自身の勝利を信じることが難しくなっていた。
帝国領を越えた北部は、想像よりもだいぶ荒れた地域であった。モンスターの数がとても多く、そもそもモンスターの種別が多い。言ってみれば人間以外による戦争が行われているのであり、非常に凶暴である上、踏み入ったときから既に戦闘状態であることが少なくなかった。
タケルたちの基本的な能力は跳躍であった。凄まじい跳躍により高速な移動と共に自在に間合いをコントロールする。その踏み込みを捉えることは困難であり、敵はなすすべもなくその強力な攻撃を受けることになる。さらに、その跳躍は空中でも可能であり、敵としてはその襲撃を予見するのが極めて難しい。この能力のために、戦闘は基本的に一方的に展開される。
アヤソラの弓は対単体という点で確実に仕留める恐るべき一撃であった。跳躍中でも正確無比な一撃を加えることができ、一撃あたり三から五秒程度の間隔で放たれる。そして、その一撃は「矢が刺さる」というようなものではない。敵に巨大な風穴があき、場合によってはバラバラになる。もはや何を射っているのかもわからないが、とてつもない破壊力であった。
ノステラの槍は敵陣に突入し、敵を薙ぎ払って離れるという戦法が基本のようだった。その突きはアヤソラ同様、敵を穿つ力を持つが、どちらかといえば大きな刃を振るうことによって発揮される斬撃のほうが主体であるようだ。刃は幅も広く、武器自体が斬撃に軸を置いているようだった。しかし、回転を交えながら舞うように繰り出される斬撃は見た目には美しいが、槍自体が全長で二メートルにも及ばないため、殲滅力には欠けていた。
殲滅力、という点では圧倒的なのがアルセエリスである。タケルの力を得たためなのだろう、黒い玉の数はずっと増加しており、その動きも随分と速くなっている。閃光の威力も大地を消し飛ばすほどのものとなっており、敵を一気に薙ぎ払うことができた。そして、圧力を発することで一定の範囲の敵を「潰す」ことができるという力もあり、アルセエリスが討伐に出れば多数の敵であっても一撃で消え去るため、アルセエリスがどのような力を持っているか、ディアボロスは判断することができなかった。
そしてなにより、タケル自身は戦闘に参加しておらず見ているだけであり、その能力は不明なままであった。

タケル同様に、ディアボロスもまた戦闘に参加する機会がなかった。そのためにタケルの女たちの戦闘を観察するくらいのものであった。
呑気なものだが、この道中で見聞を広げることができた。モンスターの修正は野生動物に近いものもあれば、人間に近いものもある。戦い方はそれぞれだが、基本的にモンスターがこちらを襲撃する場合は群れ、あるいは軍勢による襲撃となり、役割も持って襲いかかるためかなり手強い。単に遭遇するだけでそのような戦術的行動を見せないモンスターもいるが、おそらくは知能が低いのだろう。そのようなモンスターの中には単体での力が強い者もいるのかもしれない。しかし現実には、そのような場合アヤソラあるいはノステラが瞬殺するため、そのことを判断する材料はなかった。
また、地理的な要素も興味深いように見えた。この世界の地形は、およそ山、森、草原、湿原、荒野といったものになる。どの世界でもそのようなものではないか、というようにも思うが、その世界の地形は基本的に表情がない。山であればどれも同じような山で、形状こそ違うが特徴がない。かなりの距離を移動しているにも関わらず、森にある木々はどれも同じようなものであり、草原に生える草花も地域を移動しても代わり映えしなかった。
もしくは、かなりの距離を移動している、というのが錯覚なのかもしれない。帝国領は道路も整備され、安全な中を移動したが、帝国領を越えてからは基本的に山や森、湿原など移動しづらい地形が続いており、戦闘も多い。もう何日経ったのかわからないほどの行軍であったが、その体感に反して、生態系の変化が見えるほどの距離を移動していない可能性も考えられた。

不思議なことに北進しているにも関わらず、気候はあたたかくなっていった。シトラスの冷たさとは比べ物にならない。
可能性のひとつとして温暖期を迎えているということも考えられたし、もしくは北部が寒い、というのがこの世界では通用せず、東部が寒いのかもしれない。

だが、そのような状況もステンルヒアに近づくと一変した。急激に気温は下がり、あらゆるものが凍りついている。
「ナナミの協力は得られなかった」
ステンルヒアを前に、タケルはそう言った。
「ここからは一気に突破するしかない。あんたは動きも遅いし目立つ。潜入には向かない。俺達は王宮へ向かう。戦闘が始まったら、混乱に乗じて力づくで突破してこい」
そう言い残すと四人は一気に跳躍し、姿を消した。

ディアボロスが待ちくたびれ、そろそろ眠ろうかと思った頃、爆発音が響いた。ディアボロスがいた位置からするとかなり遠く、かなり強引に突破して走る必要がありそうだった。
ここにきて、ディアボロスは迷った。ディアボロスには、カルヨソを討伐する積極的な理由がない。あくまでタケルがディアボロスの敵であると、そう言っているだけのことだ。
しかし、ここでタケルに乗らず、突入を放棄した場合、タケルはそれを裏切りとみなすだろう。タケルがカルソヨの討伐に成功した場合、今度はタケルとの戦闘は避けられない。道中、敵を瞬殺してきた三人に加えタケルまでもを相手にして勝てるとは到底思えなかった。ならば女たちのもとへ生きて帰るため、ディアボロスに選択肢はないのだ。

気合裂帛、ディアボロスは天高く吼えると拳を突き出し、城壁を打ち砕いた。何事かと駆け寄る兵士もいたが、そのような兵士をディアボロスはちぎっては投げちぎっては投げ、その力の差を見せつけて寄せ付けぬようにした。市民は悲鳴を上げ逃げ惑った。
ディアボロスは不思議な力を感じた。ここにきて、なにかみなぎるような、破壊的な闘気が体を包み込んでいるかのようだった。もはや突き刺さる冷気も気にならなかった。いや、そうではない。寒くないのだ。王宮からは炎の柱が立ち上っている。その火の粉は、城壁を越えたディアボロスのもとにも届いていた。
ステンルヒアの城のつくりはディエンタールなどとは明らかに違った。全体を城壁で取り囲んだ街だが、王宮はそこから離れた山岳にあり、麓はさらに城壁で囲まれている。堀もあるのかもしれない。
ディアボロスはただひたすらに走った。ディアボロスの行く手を遮る者はなかった。

熱い。
近づくほどに灼熱の炎がディアボロスを灼く。火の粉が付着した箇所が溶ける。ただの炎ではないようだった。タケルはカルヨソが炎の魔神であると言った。これがカルヨソの力なのだろう。王宮から炎が上がる。戦闘はまだ続いているようだ。急いだほうが良い気がした。ディアボロスは走り続けた。

山を駆け上がる。ディアボロスを包む闘気はさらに増していた。そういえば、アルセエリスとの戦いに向かうときにも唐突に力が漲ってきた。もしかしたら強敵を前にしたとき、ディアボロスの力は目覚めるのかもしれない。そんなことを考えた。 

王宮についた。
駆け上るのももどかしく、ディアボロスは大地を蹴って跳躍した。
目指すは炎の上がる上階。敵はそこにいる。

壁を打ち砕き、乗り込んだ宮中で最初に目に飛び込んだ光景は、白い光に撃ち抜かれるアルセエリスの姿だった。

「エリスッ―――――――!」
アルセエリスは炎に包まれた。身悶え、つんざくような絶叫を響かせるが、もはや打つ手はない。それでもカケルは床を蹴り、アルセエリスに手を伸ばそうとした。だが、立ち上る炎にタケルは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。そしてあとに残されたのは、溶けて形を失ったなにかであった。

アルセエリスが死んだ。マリーを殺した、あのアルセエリスが、なにがあったのかもわからないまま、ただ死だけを突き付けられた。
「貴様――」
ディアボロスはカルヨソのほうを見た。その体は炎でできていた。燃え盛る炎の魔神。凄まじい圧力と熱であった。
「貴様…… ゴルダールか。こんなところに何のようだ。よもや、そこの無謀な剣神に加担するなどとは言うまいな」
「だとしたら何だと言うのか。カルヨソ、貴様が殺したあの女は、この俺の仇だ。なぜ殺した。やつを殺すことができなくなったではないか!」
「ゴルダール、訳のわからないことを申すな。あの魔王が貴様の仇であるというのなら、俺が代わりにその仇をとった。それでよかろう。むしろ感謝しても良いくらいではないのか」
「黙れ下郎がッ――――!」
突進する。一気のカルヨソとの間は詰まった。だが、本能だろうか。ディアボロスは拳を繰り出す前に、横へと飛び退いた。刹那、セルヨソの前には紅蓮の壁が形成されていた。あのまま突っ込んでいたら、ディアボロスといえど溶けてなくなっていただろう。
成程、タケルが助力を願うわけだ。跳躍による突進を軸としたタケルたちの場合、炎の壁を展開されればみずからそこに飛び込むことになる。相性が悪いのだろう。
見れば、アヤソラの姿がない。既に倒されたのだろうか。だとすれば、遠距離からの攻撃を可能とする二人が先に倒されたことになり、現在の状況はカルヨソの圧倒的有利ということなのだろう。
「オォォォォォ!」
闘気と共に拳を突き出す。打ち出された波動は地を揺るがし、上階もろとも城壁を吹き飛ばした。
「ゴルダール……」
だが、カルヨソには傷一つなかった。
「貴様、なぜここにきた」
「…………」
怒りに任せ力を振るうことに意味がないと、即座に思い知った。いかに攻撃を続けたところで、カルヨソには通らない。カルヨソもそれを認識した上で、戦闘を中断しているのだ。
「―――――ッ」
その瞬間、タケルが切り込んだ。だが、読まれていた。カルヨソが炎の波動を飛ばす。その熱に焼かれ、タケルは墜落した。
「貴様はもとより俺を討つつもり。相違ないな?」
「……その通りだ」
「なぜだ。アーリカンの甘言に惑わされたか」
「……アーリカン?」
「――ゴルダール、貴様、よもや記憶さえ取り戻していないのか? さては、アーリカンにうまく乗せられたか」
「話が読めないな。貴様、何を知っている?」
「何を知っているも何も、単に覚えているというだけのことだ。上層世界でのことをな。それはアーリカン――そこの剣神とて同じことだろう」
「…………」
陥れるためでなく、利用するため謀ったか。予想できたことではあったが、いざそうなれば辛い。
「……俺には守るべきものがある。タケルの求めに否を述べるべくはない」
「アーリカンの力を前に、覚醒を果たせていない貴様は従うより他になかった、ということか。なら良い。見ての通り、もはやアーリカンは倒れるのみだ。その企みは潰える。貴様は安心して帰るがいい。力なき魔神など、ただの民に過ぎないのだから」
ディアボロスは迷った。両者の間にはなんらかの企みがあるのは明らかだ。しかし、何の情報もなくどちらを支持するか決めることはできない。
しかし、ここにいる意味がないことは明らかだった。ディアボロスはまるで戦力にならず、カルヨソはディアボロスに対して戦意を持っていない。ならば、ここは撤退すべきだ。

「ディアボロスッ…… 騙されてはいけないッ……!」
タケルが、剣を杖のようにして立ち上がった。満身創痍であった。
「彼は、この世界を滅ぼすつもりだッ…… このまま逃げ帰れば、君が守りたいものもろとも、全てを燃やし尽くすだろう……!」
よろよろと立ち上がったタケルを、カルヨソは睥睨するように見た。圧倒的な力、もはや勝利を疑っていない。ノステラは絶えず好きを窺っていたが、飛びかかることができずにいる。
「馬鹿なことを言う。ゴルダール、思い出せないなら聞かせてやろう。
 確かに、俺と貴様は敵同士であった。いや、単に不仲であったと言っていいだろう。そもそも世界の異端たる貴様を受け入れる者などなかった。誰もが恐れ、そして忌み嫌っていた。世界の支柱たる貴様を討伐し、世界を真の意味で我ら神々のものにしたい。誰もがそう考えていただろう。
 それはアーリカンとて同じ。だが、貴様と神々という一枚岩の戦いではなかった。我ら魔神と、彼奴ら神々、そして創生の魔神というそれぞれに敵同士であり、俺とアーリカンはただその中で忌まわしい敵であったに過ぎない。
 俺はこの潔白の紳士を装った剣神が悪い。こやつの略奪が、どれほど神々を苦しめたと思う。甘言を駆使して女神たち、そして女魔神たちを陥れてきたそこの剣神を許す気になどなれぬ。神々に追放されたと聞き及んだとき、どれほど胸のすく思いだったか。
 だが、それで終わりではなかった。こやつは自分一柱が追放になどなるまいと、上層世界に罠を仕掛けていた。それによって、何柱かの神と魔神が巻き添えとなった」
「何を……! ディアボロス、彼のいうことに耳を貸してはいけない。彼はその炎で上層世界を焼き尽くし、破壊の罪で魔神によって追放されたのだ!
 彼は極めて残虐な魔神だ。神々を苦しめるべく、神々が創造した世界を焼き、人々が苦しみ悶える姿を見せつけることで、自分の力を誇示し、神々に畏怖を植え付け支配しようとした!
 彼のような邪悪な魔神を、この世界にのさばらせてはならない! 彼は上層世界の邪悪なる魔神たちと結託してこの世界に力を注ぎ、この世界を崩壊させるつもりなのだ!
 君の愛するすべてが、その炎に焼き尽くされてしまうぞ!」
変わらず、カルヨソは余裕を持ってタケルを睨み、タケルは立つのもやっとといった様子で睨み返していた。
ディアボロスは迷った。この場でできることはない。タケルが敗勢の今、ディアボロスができるのはシトラスへ逃げ帰り、女たちを守ることだけだ。しかし、現実としてはもしタケルの言うことが真実であるならば、女たちを守れる可能性はタケルに加勢するほうが僅かだが高い。

そう考えたとき、突如大きな揺れが起きた。
「なんだっ」
揺れはだんだん大きくなり、立っていられないほどになった。
その隙をノステラは見逃さなかった。
「はぁぁぁぁぁッ」
空間ごと切り裂くような刺突に、耳鳴りがした。カルヨソはその攻撃に気づいて身をよじって躱したが、ノステラの槍から放たれる衝撃波は避けきれなかった。脇腹をえぐられ、炎が吹き出した。
「くぉぉぉ」
カルヨソがよろめく。その瞬間を待っていたように、タケルが飛びかかった。だが
「愚かなッ…!」
カルヨソが腕を振ると灼熱の衝撃波が襲った。さらに返す腕を振り下ろすと炎の爪が襲いかかった。
完全に直撃するタイミングだった。だが、タケルは直前に横へと跳躍し、ノステラを抱えて飛び退いた。
だが、その直線上にいたのがディアボロスであった。
「ぐっ……あぁぁぁぁァァァァァァァ!」
熱い。肉体をえぐる炎がディアボロスの鋼の筋肉を溶かしていく。傷口から炎が立ち上った。体が焼ける。口から炎がわきあがった。
「ぐぁぁぁっ…… がっ、ぐっ……ぁ……」
その身を焼かれ、ディアボロスは仁王立ちのまま炎を上げた。

タケルとカルヨソは睨み合っていた。もはや互いに引ける状況ではない。依然としてタケルが不利ではあるが、ノステラの槍はカルヨソに大きなダメージを与えており、カルヨソとしてももはや余裕を見せられる状況ではなかった。
タケルとノステラが構えた。数の優位を活かしてなんとか突破口を拓くしかない。
だがそのとき、再び大きな揺れが襲った。否、ただの揺れではない。床が沈み、そして王宮は崩壊した。

「くぅ……」
高層の王宮が崩壊し、落下したことでカルヨソはまたダメージを受けた。それほど大きな傷ではないが、隙だらけであった。この隙をノステラが逃すわけがない。カルヨソは死を覚悟した。
だが、それは訪れなかった。何事だろうか。カルヨソは瓦礫を焼き、その身を起こした。
カルヨソの目の前には見たことのない柱が立っていた。柱に見えた。空を遮るそれは、かつて見た巨人の姿であった。

王宮よりも巨大な体は、上層世界を構築する一部であった。いかなる力をもってしても傷つけることすらかなわない。そう言われていた。
「ゴルダール…………」
タケルもまた、ディアボロスの姿を見て固まっていた。これまでは大した力も持たず、選びようもなかった。だが今はその逆だ。ディアボロスはタケルも、カルヨソもひと捻りであり、先程までのカルヨソのような立場、むしろそれ以上に絶対的な生殺与奪を握っいる状態であった。
「思い出したぞ、アーリカン……カルヨソ……」
闘気をみなぎらせる。ただ巨大なだけではない。その力は神々、そして魔神たちが束になっても叶わず、奸計による追放という手に出たのだ。
ディアボロスはその上層世界での出来事を思い出した。
タケルの言葉も、カルヨソの言葉も偽りではない。だが、事実でもない。
アーリカンは女を誑かす神であった。そのあたりの経緯は、カルヨソの語ったことでおよそ違いはない。だが、アーリカンが追放時に巻き添えにしたという事実はない。追放者以外が世界流しになったのはアーリカンが追放されてから随分と経ってからのことで、ほとんど剣に関わる能力しか持たないアーリカンの仕業とは考え難かった。直近に追放されたのがアーリカンであったことから疑いの声が上がったが、疑うべき要素に乏しいということで排除された。
一方、カルヨソが神々の世界を焼き尽くしていたこともまた事実だ。だが、邪悪な趣味によってというわけではない。神々が作り上げた世界はその世界で神々に祈りを捧げさせることでその力を強めようということであった。戦時中、カルヨソはそのような敵の補給を見過ごすわけにいかず、世界もろとも焼き尽くすことで戦況を優位に進めようとした。しかし戦況が魔神側に傾いた頃、魔神たちは世界を破壊し虐殺したことをカルヨソの独断ということにし、追放した。それをカルヨソは知らされることはなく、罠によって行われた。
どちらもまだゴルダールが上層世界の一部として世界を支えていた頃の話だ。ゴルダールはそのすべてを見聞きし、ただ嘆くばかりであった。
「このような窮地にあってまだ私怨のために争いを続けるとは……見苦しいぞ、愚か者め! 恥を知れ!」
タケルとカルヨソは平伏した。創生の魔神の力は、一柱の神や魔神が歯向かってどうにかなるようなものではない。それは天災のようなものだ。正しく振る舞い、過ぎるのを待つだけなのだ。
「見よ、あれを!」
その声に神と魔神はディアボロスの指差す先を見た。そこには夜の闇を裂いて立ち上る光の柱があった。
「あれが何かわかるか。
 あれがどこか分かるか。
 貴様らの戯れなど興味はない。 俺の怒りを買いたくなければ、今すぐ戦地へ向かうのだ!」
そう言うとディアボロスは踵を返し、光の柱のある場所――ディエンタールへと歩を進めた。

2021-12-25

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